lundi 19 juin 2017

グリーンランド語入門 (6) 動詞

グリーンランド語入門第 6 回の範囲は,Kölbl, Grönländisch, S. 40–44 です (全体の目次は第 1 回をご覧ください).前回までで名詞についての説明がひと段落し,いよいよ両輪のもう片方である動詞に関する説明に入ります.


動詞


ちゃんとした文のためには動詞が必要です.動詞は名詞に比べてずっと規則的であり,いくつかの点ではドイツ語の動詞よりも厳密です.


3 つの動詞幹


動詞は語幹から 3 つの類に分類され,これは屈折と接尾辞付加にとって重要です.動詞幹 (Verbalstamm) は見出し形 (Nennform) の最後の 3 文字を除去することで得られます.

見出し形 語幹
aperi|voq aperi- 母音で終わる=母音幹 (V-Stamm)
sinip|poq  sinip- 子音で終わる=子音幹 (K-Stamm)
atuar|poq atuar- r で終わる= r-幹 (R-Stamm)

グリーンランド語〔の動詞〕には基本形 (Grundform, または不定形 Infinitiv) がありません.辞書における見出し形としては 3 人称単数が与えられます.

追加的な接尾辞がなければ,すべての人称において動詞は現在 (Gegenwart) および過去 (Vergangenheit) を表します.疑わしい場合には,動詞はむしろ過去時制形 (Vergangenheitszeitform) として,すなわち現在までに行われた行為の状態または結果として,解釈されやすいです.〔この説明では現在完了的に聞こえますが,次の 3 例でタ形で訳したものの原文は過去形 fragte, schlief, las です.〕

aperivoq 彼/彼女/それ〔以下略〕は尋ねた,または尋ねる.
sinippoq 彼は眠った,または眠る.
atuarpoq 彼は読んだ,または読む.


過去-現在 (Vergangenheit-Gegenwart)


動詞は「私は行く,君は行く,彼は行く」等々の変化表に従って屈折します.このために必要とされる語尾は,ひとつの語幹〔類〕のすべての動詞について同一です.

人称 母音幹   子音幹    r-幹
1 単 aperi|vunga sinip|punga  atuar|punga
2 単 aperi|vutit  sinip|putit  atuar|putit
3 単 aperi|voq  sinip|poq  atuar|poq
1 複 aperi|vugut sinip|pugut  atuar|pugut
2 複 aperi|vusi  sinip|pusi  atuar|pusi
3 複 aperi|pput   sinip|put   atuar|put

人称代名詞は追加的には必要とされません.語尾の屈折のうちにつねに含意されているためです.


疑問形 (Frageform)


疑問においては,1 人称単数・複数を除いて特別の形が必要とされます.

人称 母音幹   子音幹   r-幹
2 単 aperi|vit?  sinip|pit?  atuar|pit?
3 単 aperi|va?   sinip|pa?  atuar|pa?
2 複 aperi|visi?  sinip|pisi?  atuar|pisi?
3 複 aperi|ppat?  sinip|pat?  atuar|pat?

Oli sinip|pa?  オレ (Ole) は眠っている/眠ったか?
Suu, sinip|poq.  はい,彼は眠っています/眠りました.


±mik/±nik を伴う不定の補語 (unbestimmte Satzergänzung)


〔ergänzen は「補う,不足を満たす,完全にする」の意ですから,Satzergänzung をここでは「補語」と訳しますが,次の文にもあるとおりこれは「目的語」と同義です.たとえばフランス語文法でも目的語をかならず「直接目的補語 (COD),間接目的補語 (COI)」と呼ぶ習わしになっていますから,これは決して変な訳語ではありません.英文法の用語のように目的語 O と補語 C とをなにか対立するもののようには考えないでください.〕

グリーンランド語文の構造 (Aufbau) は,行為の目的 (Ziel der Handlung, または目的語 Objekt) が定 (bestimmt) であるかないかにだけ依存しています.行為がなにか不定のものに対して行われるとき,この不定のものは具格に置かれます.この具格は「〜と,〜で」を意味するのではなしに,たんに「ある〔不定の〕」を意味します.

Qimmi|mik taku|vunga.  私はある犬 (単数具格) を見た.
Nannu|nik taku|vugut.  私たちは白熊たち (複数具格) を見た.


目的語をとる動詞・目的語をとらない動詞


「目的語をとる (zielend)」と「目的語をとらない (nichtzielend)」との区別はグリーンランド語にとって根本的に重要です.目的語をとる動詞 (あるいは他動詞 transitive) は,つねにその後ろに行為の目的を記述する〔「〜を」という〕補語 (Satzergänzung) を従えます.

他方,目的語をとらない動詞 (または自動詞 intransitive) は,「を」なしに単独で立ちます.たとえば「眠る」がそうで,「私はそれを眠る」は意味をなしません.

目的語をとる動詞は,すべての人称について自身の完全な語尾の組をもっています.またそれら〔の動詞〕はつねに 3 つの動詞幹〔類〕のうちの 1 つに属します.単語リストにおいてそれらは語幹に応じて -(v)aa, -ppaa, -rpaa とともに与えられます.

neri|vaa (母音幹) それを食べた
taku|(v)aa (母音幹) それ/彼/彼女を見た (v は u と a の間で脱落しますが,それでも母音幹です)
naapip|paa (子音幹) 彼/彼女に会った
atuar|paa (r-幹) それを読んだ

〔「それ」と書いたり「彼/彼女」と書いたりしていますが,ドイツ語では上記「会った」を除いてすべて ihn/sie/es の 3 性併記です.ドイツ語では食べたり読んだりする対象が男性名詞や女性名詞でありうるためですが,日本語では「彼を食べた」や「彼女を読んだ」とは言いがたいためこのようなばらつきが生じています.〕

〔「会った」のところは „begegnete ihm/ihr“ と 3 格で日本語もニ格ですが,グリーンランド語では他動詞として扱われるようで,こうしたことはいまさら注意する必要もないでしょう.日本語と格 (助詞) が食い違う有名な例である,英語の to marry やドイツ語の helfen などを想起してください.〕

他動詞〔の活用〕形は,誰が誰に何々をしたか (wer wem etwas tut) を叙述します〔etwas tun という構文のせいでやむなく「誰に wem」と 3 格ですが,上の説明に照らせばむしろ 4 格とみなして「誰が誰を何した」とまとめたほうがすっきりするかもしれません.つまり動詞の活用形は「誰が」という主語の人称変化のみならず,補語の人称変化をも含むということです〕.こうした動詞形は,「彼に/彼女に」(ドイツ語のニ格 Wemfall) や「彼を/彼女を/それを」(ドイツ語のヲ格 Wenfall),はたまたドイツ語〔日本語〕ではその他多くの単語に対応する意味を,不可分に含みます.

他動詞の語尾からは,行為をしたのが 1 人なのか複数人なのかと同時に,それによって影響を受ける目的語が 1 つなのか複数なのかということも見分けられます:

neri|vaa「彼はそれを食べた」
neri|vai「彼はそれらを食べた」
neri|vaat「彼らはそれを食べた」
neri|vaat「彼らはそれらを食べた」

多くの動詞は他動・自動が変更可能〔日本語のようにどちらにも使える〕ですが,すべてではありません.自動詞,たとえば atuarpoq「彼は読む〔読書する?〕」を他動詞にするためには,自動詞語尾を他動詞語尾に変えます:atuarpaa「彼はそれを読む」.

他動詞を自動詞にするためには,たいてい -i- または -si- (何か etwas) を挿入すれば得られます.たとえば tuni|vaa「彼はそれを売る verkauft es」,tuni|si|voq「彼は何かを売る verkauft etwas」.

Aucun commentaire:

Enregistrer un commentaire