グリーンランド語入門第 9 回の範囲は,Kölbl, Grönländisch, S. 50–53 です (全体の目次は第 1 回をご覧ください).グリーンランド語に「形容詞」という品詞はないことを以前見ましたが,それでは物の性質などをどのように記述・表現するのかを今回学ぶことになります.
形容表現
「よい」「小さい」「木製の」「グリーンランドの」といった性質は,さまざまなしかたで表現されます.基本的にはそれらは名詞の後に立ちます.
一方で,名詞は形容詞として用いられることができ,±mit〔奪格語尾〕を伴ったり伴わなかったりします:
angut utoqqaq 男+老いた人=老人
ukkusissa|mit sanaaq 滑石から+製品=滑石製品
それから形容接尾辞 (Eigenschaftssuffix) があります.たとえば -suaq「大きい」や -nnguaq「小さい,愛らしい」などです.
qimi|nnguaq 小さい (かわいい) 犬
Kunu|nnguaq 愛すべきクヌート (・ラスムセン)
〔欄外注:〕有名な極地探検家クヌート・ラスムセン (Knud „Kunuk“ Rasmussen) は今日でもこのように呼ばれています.
しかしながら,もっとも大きな意味をもつのは形容動詞 (Eigenschaftsverb) です.〔これもまた語弊のある訳語ですが,形容詞 Eigenschaftswort の働きをする動詞 Verb ですからちょっとこれ以外に訳しようがないでしょう.「性質動詞」などと言って言えなくはなさそうですが,どうも字面からなにが言いたいのかはっきりしません.むしろ日本語文法の「形容動詞」のほうが動詞でもないくせに悪い言葉で,英語の本ではそれが adjectival noun (形容名詞) や nominal adjective (名詞的形容詞) と呼ばれているほか,日本語学習者向けにはふつう「ナ形容詞」という名前で教えられています.〕
形容動詞はこれまでに扱ってきた動詞と異なるところがありません.これらのなかには「私は〜です,君は〜です,彼は〜です」といった〔sein 動詞の〕性質が含まれています.
angivoq「大きい」,aappaluppoq「赤い」,kusanarpoq「美しい」.
これらは自動詞のように屈折〔=活用〕し,否定・疑問形・未来など〔も同様〕です.
Qimmeq angi|voq. その犬は大きい〔3 単〕.
Tupe|rput miki|voq. 私たちのテントは小さい〔3 単〕.
Qasu|(v)it? 君は疲れているか〔疑問形・2 単〕.〔原語 „müde“ のため「疲れている」か「眠い」のいずれかです.下も同様.〕
Qimmi|t qasu|nngilla|t? その犬たち〔複数基本形〕は疲れていないか〔否定・3 複〕.
「よい ist gut」を表す特定の単語はありません.ajorpoq「悪い ist schlecht」の否定を用います.
Aju|nngila|q. 悪くない=よい.
これはつまり「悪くない」だけではなく実際に「よい」をも意味するのです.
Aqagu sila aju|ssa|nngila|q. 明日はよい天気になるだろう〔未来・否定・3 単〕.
形容動詞は „bin, bist, ist, ...“〔という sein 動詞の意味〕を伴わずにはいられません.次を見比べてください:
Das Zelt ist klein〔テントは小さい〕= Tupeq mikivoq.
Das kleine Zelt〔小さいテント〕= Tupeq ... ??〔mikivoq を置くと述語になってしまう.〕
推測できるかもしれませんが,„ist“ というつなぎの単語なしに名詞に直接隣りあうこの位置では,形容動詞はべつの語尾を必要とするのです.
母音幹
miki|voq は小さい → miki|soq 小さい
子音幹
aappalup|poq は赤い → aappalut|toq 赤い
oqimaap|poq は難しい → oqimaa|tsoq 難しい
pikkorip|poq は有能だ → pikkoris|soq 有能な
r-幹
ajor|poq は悪い → ajor|toq 悪い
〔接尾辞がついた形をさらに -toq 形にする場合〕
-nngilaq (aju|nngilaq はよい) → -nngitsoq (aju|nngitsoq よい)
-ssaaq (miki|ssaaq は小さいだろう wird klein sein) → -ssasoq (miki|ssasoq 未来に小さい〔?〕ein zukünftig kleines)
母音幹および r-幹は,少数の例外を除いて,〔それぞれ〕ひとつの語尾 (順に -soq, -toq) をもちますが,子音幹には 3 通りの語尾 (-ttoq, -tsoq, -ssoq) がありえます.またいくつかは長い -oo- をもっており,これが表しているのはその〔形容詞によって〕言われている性質が高度に現存している (in hohem Maße vorhanden) ということです:puala|sooq「太った dick, fett」.
この -toq-形の意味は「この性質をもった誰か/何か jemand/etwas mit dieser Eigenschaft」です.これらはどこか名詞に似ていますが,さらにそれ以上のものでありえます.簡単にこれらを形容名詞 (Eigenschafts-Nomen) と呼ぶことにします.
〔欄外注:〕形容名詞は 1 類の名詞のように屈折します.これらは数と格においてそれが伴う名詞と一致します.
tupeq miki|soq 小さいテント
illu angi|sooq 大きい家
一方で,名詞は形容詞として用いられることができ,±mit〔奪格語尾〕を伴ったり伴わなかったりします:
angut utoqqaq 男+老いた人=老人
ukkusissa|mit sanaaq 滑石から+製品=滑石製品
それから形容接尾辞 (Eigenschaftssuffix) があります.たとえば -suaq「大きい」や -nnguaq「小さい,愛らしい」などです.
qimi|nnguaq 小さい (かわいい) 犬
Kunu|nnguaq 愛すべきクヌート (・ラスムセン)
〔欄外注:〕有名な極地探検家クヌート・ラスムセン (Knud „Kunuk“ Rasmussen) は今日でもこのように呼ばれています.
しかしながら,もっとも大きな意味をもつのは形容動詞 (Eigenschaftsverb) です.〔これもまた語弊のある訳語ですが,形容詞 Eigenschaftswort の働きをする動詞 Verb ですからちょっとこれ以外に訳しようがないでしょう.「性質動詞」などと言って言えなくはなさそうですが,どうも字面からなにが言いたいのかはっきりしません.むしろ日本語文法の「形容動詞」のほうが動詞でもないくせに悪い言葉で,英語の本ではそれが adjectival noun (形容名詞) や nominal adjective (名詞的形容詞) と呼ばれているほか,日本語学習者向けにはふつう「ナ形容詞」という名前で教えられています.〕
形容動詞 (Eigenschaftsverb)
形容動詞はこれまでに扱ってきた動詞と異なるところがありません.これらのなかには「私は〜です,君は〜です,彼は〜です」といった〔sein 動詞の〕性質が含まれています.
angivoq「大きい」,aappaluppoq「赤い」,kusanarpoq「美しい」.
これらは自動詞のように屈折〔=活用〕し,否定・疑問形・未来など〔も同様〕です.
Qimmeq angi|voq. その犬は大きい〔3 単〕.
Tupe|rput miki|voq. 私たちのテントは小さい〔3 単〕.
Qasu|(v)it? 君は疲れているか〔疑問形・2 単〕.〔原語 „müde“ のため「疲れている」か「眠い」のいずれかです.下も同様.〕
Qimmi|t qasu|nngilla|t? その犬たち〔複数基本形〕は疲れていないか〔否定・3 複〕.
「よい ist gut」を表す特定の単語はありません.ajorpoq「悪い ist schlecht」の否定を用います.
Aju|nngila|q. 悪くない=よい.
これはつまり「悪くない」だけではなく実際に「よい」をも意味するのです.
Aqagu sila aju|ssa|nngila|q. 明日はよい天気になるだろう〔未来・否定・3 単〕.
-toq の形容名詞 (Eigenschaftsnomen)
形容動詞は „bin, bist, ist, ...“〔という sein 動詞の意味〕を伴わずにはいられません.次を見比べてください:
Das Zelt ist klein〔テントは小さい〕= Tupeq mikivoq.
Das kleine Zelt〔小さいテント〕= Tupeq ... ??〔mikivoq を置くと述語になってしまう.〕
推測できるかもしれませんが,„ist“ というつなぎの単語なしに名詞に直接隣りあうこの位置では,形容動詞はべつの語尾を必要とするのです.
母音幹
miki|voq は小さい → miki|soq 小さい
子音幹
aappalup|poq は赤い → aappalut|toq 赤い
oqimaap|poq は難しい → oqimaa|tsoq 難しい
pikkorip|poq は有能だ → pikkoris|soq 有能な
r-幹
ajor|poq は悪い → ajor|toq 悪い
〔接尾辞がついた形をさらに -toq 形にする場合〕
-nngilaq (aju|nngilaq はよい) → -nngitsoq (aju|nngitsoq よい)
-ssaaq (miki|ssaaq は小さいだろう wird klein sein) → -ssasoq (miki|ssasoq 未来に小さい〔?〕ein zukünftig kleines)
母音幹および r-幹は,少数の例外を除いて,〔それぞれ〕ひとつの語尾 (順に -soq, -toq) をもちますが,子音幹には 3 通りの語尾 (-ttoq, -tsoq, -ssoq) がありえます.またいくつかは長い -oo- をもっており,これが表しているのはその〔形容詞によって〕言われている性質が高度に現存している (in hohem Maße vorhanden) ということです:puala|sooq「太った dick, fett」.
この -toq-形の意味は「この性質をもった誰か/何か jemand/etwas mit dieser Eigenschaft」です.これらはどこか名詞に似ていますが,さらにそれ以上のものでありえます.簡単にこれらを形容名詞 (Eigenschafts-Nomen) と呼ぶことにします.
〔欄外注:〕形容名詞は 1 類の名詞のように屈折します.これらは数と格においてそれが伴う名詞と一致します.
tupeq miki|soq 小さいテント
illu angi|sooq 大きい家
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