vendredi 20 août 2021

下宮・金子『古アイスランド語入門』テキスト 2

下宮忠雄・金子貞雄『古アイスランド語入門——序説・文法・テキスト・訳注・語彙』(大学書林、2006 年)、テキスト編 2「アイスランド発見」(69 頁) の文法解説。



Svá er sagt, at menn skyldu fara ór Nóregi til Færeyja.


svá 副「その・このように」。

er 現 3 単 < vera。形式主語はなく、いわば at 節が主語。

sagt 過分・中単主 < segja「言う」。

at 接「〜ということ」。英語の that 節と同様の働きをする。

menn (男) 複主 < maðr「男」。

skyldu 接・過 3 複 < skulu「〜すべきである、するはずだ」。これまた本書の文法編では説明されていない事項だが、これは間接話法なので接続法になっている。ただしそれは厳格な規則ではなく、「接続法と直説法は間接話法においてしばしば一貫せず交替する」と言われている (Gordon and Taylor, §168)。

fara 不「行く、旅する」。

ór 与格支配。「〜から」。

Nóregi (男) 単与 < Nóregr「ノルウェー」。

til 属格支配。「〜へ」。意味から考えると対格にしたくなりそうだが、これは名詞から来ている前置詞のため。すなわち独 Ziel「目標;目的地」と同じ名詞から発しており、属格名詞を従えて「〜の目的で」という言いかただった。属格支配の前置詞にはこういうものが多い。

Færeyja (女) 複属 < 複主 Færeyjar「フェーロー諸島」。諸島なので複数のみ。


En þá rak vestr í haf ok fundu þar land mikit.


en 接「しかし」。

þá 副「そのとき、そこで」。

rak 過 3 単 < reka「(船を) 押しやる、漂流する」。注のとおり非人称的に使われている。

vestr 副「西へ」。

í 対格支配。漂流するというのは海の外から中へではなく海の上でのできごとなのに対格なのは、方向というよりも移動という側面が肝要なのだろう。実際たとえば「海で死ぬ」というように静的な動作の場合には deyja í hafi と与格になる。

haf (中) 単対「海」。í haf「海の中を」といってもべつに水中ではなく、むしろ平面的な「海という領域」の中と考えれば納得しやすい。「海へ出る」というときも次の文の sigla という動詞を使って sigla í haf (または á haf) と言う。

ok 接「そして」。

fundu 過 3 複 < finna「見いだす」。

þar 副「そこに、そこで」。

land (中) 単対「土地」。

mikit ↑中単対 < mikill「大きい」。


Ok er þeir sigldu af landinu, fell snær m[i]kill á fjǫll, ok fyrir þat kǫlluðu þeir landit Snæland.


er 接「〜するとき」。

þeir 3 男複主。人称代名詞「彼らは」。

sigldu 過 3 複 < sigla「帆を張って進む」。出帆したということ。

af 与格支配。

landinu 中単与・定 < land。

fell 過 3 単 < falla「落ちる、降る」。

snær (男) 単主「雪」。

mikill ↑男単主「大きい」。ここでは「多量の」の意 (日本語でも「大雪」と言う)。本文では míkill となっているがこれは誤字 (下宮『案内』では直っている)。

á 対格支配。「〜の上に・へ」。

fjǫll (中) 複対 < fjall「山」。

fyrir 対格支配。「〜のために・ゆえに」。

þat 中単対。指示代名詞「そのこと」。前文の内容=大雪が積もったことを指す。

kǫlluðu 過 3 複 < kalla「呼ぶ」。

landit (中) 単対・定 < land。

Snæland (中) 単対「雪国」。


Þeir lofuðu mjǫk landit.


lofuðu 過 3 副 < lofa「賛美する」。

mjǫk 副「大いに、非常に」。


Svá sagði Sæmundr prestr inn fróði.


sagði 過 3 単 < segja「言う」。

Sæmundr (男) 単主「セームンド (人名)」。

prestr (男) 単主「司祭」。Sæmundr に同格の称号。

inn 冠・男単主。

fróði 男単主・弱 < fróðr「賢い、学識ある」。冠詞があるので弱変化。

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