dimanche 22 août 2021

下宮・金子『古アイスランド語入門』テキスト 5

下宮忠雄・金子貞雄『古アイスランド語入門——序説・文法・テキスト・訳注・語彙』(大学書林、2006 年)、テキスト編 5「赤毛のエリクのサガ」(72–73 頁) の文法解説。前回までの 2 倍の長さになるため、既出の単語や変化形はなるべく省略を増やしていく。



Þorvaldr hét maðr.


Þorvaldr (男) 単主「ソルヴァルド (人名)」。

hét 過 3 単 < heita。


Eiríkr rauði hét sonr hans.


Eiríkr (男) 単主「エイリーク (人名)」。

rauði ↑男単主・弱 < rauðr「赤い」。定である人名を形容するため弱変化。

sonr (男) 単主「息子」。

hans 3 男単属。「彼の」。


Þeir námu land á Hornstrǫndum ok bjuggu at Drǫngum.


námu 過 3 複 < nema「とる」。nema land は文字どおりには「土地をとる・奪う」の意だが、「植民する」ということ。

Hornstrǫndum (女) 複与 < Hornstrǫnd「ホルン海岸 (地名)」。語彙集には Horn が中性としてこの後ろに Hornstrǫnd があげられており、strǫnd 単独では出ていないが、これの性は女性である。

bjuggu 過 3 複 < búa「住む」。強変化 VII 類 búa—bjó—bjuggu—búinn。byggja—bygði「住む」とはべつの動詞なので注意。

at 与格支配。「(場所) に・で」。

Drǫngum (女) 複与 < 複主 Drangar「ドランガル (地名)」。


Þar andaðisk Þorvaldr.


þar 副「そこで」。

andaðisk 過 3 単・再帰 < andask「死ぬ」。anda 単独では「息を吸う、生きる」。


Sigldi Eiríkr á haf undan Snæfellsjǫkli.


sigldi 過 3 単 < sigla「帆を張って進む」。

haf (中) 単対。

undan 与格支配。「〜に沿って」。

Snæfellsjǫkli (男) 単与 < Snæfellsjǫkull「スネーフェルスヨクル (地名)」。現代語読みでは「スナイフェルスヨークトル」。


Hann kom útan at jǫkli þeim, er heitir Bláserkr.


kom 過 3 単 < koma。

útan 副「外から」。ノルウェーを基準にして út「外へ=ノルウェー国外へ」、útan「外から=ノルウェー国外から、とくにアイスランドから」という用法があり、ここでも「アイスランドから出てきて」ということ。

jǫkli (男) 単与 < jǫkull「氷河」。

þeim ↑男単与。指示代名詞。このように関係代名詞の先行詞に指示代名詞を付すことは文法編 §27、より多くの実例は Chapman, Lesson 10 を参照。

er 関係小辞。関係節のなかでは主語の役割。

heitir 現 3 単 < heita。

Bláserkr (男) 単主「ブラーセルク (地名)」。


Hann fór þaðan suðr at leita, ef þar væri byggjanda.


fór 過 3 単 < fara。

þaðan 副「そこから」。

leita 不「探す」。現代語でも Google なり辞書なりで「検索する」ときこの動詞を使う。

ef 接「〜かどうか」。

væri 接・過 3 単 < vera。人が住める場所があるかどうかまだわからない仮想の話なので接続法。

byggjanda 現分・中単主 < byggja。現在分詞はつねに弱変化。land が省略されているので中性単数。「人が住んでいる」という注が与えられているが、ものすごく語弊があり、これではすでに現に人が住んでいる場所があるかどうか探したようである。しかしもしそういう意味であれば過去分詞で bygt と言われたはずだから、ここは「住むような、住むべき」ということ。参考までに 2 種の英訳を示す:‘to discover whether the land was habitable there’ (Jones 訳)、‘seeking suitable land for settlement’ (Kunz 訳)。


Þat sumar fór Eiríkr at byggja land þat, er hann hafði fundit ok hann kallaði Grœnland, því at hann kvað menn þat mjǫk mundu fýsa þangat, ef landit héti vel.


þat ↓中単対。指示代名詞。

sumar (中) 単対「夏」。期間の対格。

er 関係小辞。先行詞は land þat。

hafði fundit 過完 3 単 < finna。

Grœnland (中) 単対「グリーンランド (地名)」。

því at「というのは、なぜなら」。

kvað 過 3 単 < kveða「言う、話す」。言う内容が続く対格不定法構文で示されている。

menn (男) 複対 < maðr。これは主語ではなく fýsa の目的語。

þat 中単対。指示代名詞。対格不定法構文の対格主語。ef 節=その国がグリーンランドという魅力的な名前をもつこと、を指す。

mjǫk 副「大いに、とても」。本書の訳文では訳し落とされている。

mundu 過去不定詞 < munu「〜だろう、かもしれない」。過 3 複と同形だがそうではなく、対格不定法構文の動詞。

fýsa 不「〜したい気にさせる」。助動詞 mundu に従えられているので不定形。非人称動詞で、対格目的語 (ここでは menn) をとってその人を促す。

þangat 副「そこへ」。

landit (中) 単主・定 < land。

héti 接・過 3 単 < heita。もしの話なので接続法。

vel 副「よく」。よく名づけられる=よい・魅力的な名前をもつ。


Svá segir Ari Þorgilsson, at þat sumar fór hálfr þriði tøgr skipa til Grœnlands ór Breiðafirði ok Borgarfirði, en fjórtán kómusk út; sum rak aptr, en sum týndusk.


下宮『案内』ではこの文のまえに 3. と番号が置かれ区切られている。この一文は前掲 Jones 訳では第 2 章末にあるが、Kunz 訳ではなぜか存在しない。

segir 現 3 単 < segja。

fór 過 3 単 < fara。主語は 25 隻の船だが、文法的には (hálfr þriði) tøgr という単数名詞のため動詞も単数。

hálfr ↓男単主「半分の」。

þriði ↓男単主「第 3 の」。

tøgr (男) 単主「10 個の集まり」。10 個ずつのグループの 3 つめが半分だから 25。

skipa (中) 複属 < skip「船」。

Grœnlands (中) 単属 < Grœnland。

Breiðafirði, Borgarfirði いずれも (男) 単与 < -fjǫrðr。

fjórtán 不変化「14」。skipanna (中) 複属・定「その船々のうちの」が省略されている。

kómusk 過 3 複・再帰 < komask「目的地に着く」。

út 副「外へ、外国へ」。出航地点はノルウェーではなくアイスランドだが、行き先がやはりノルウェーから見て外地のグリーンランドだから使われているのだろう。

sum 中複対 < sumr「いくつかの、ある」。非人称動詞 reka の目的語なのでこちらは対格。中性なのは skip が中性だから。

rak 過 3 単 < reka「押し流す」。aptr「戻って」があるので「押し戻す、押し返す」ということ。

sum 中複主 < sumr。こちらは主格主語。

týndusk 過 3 複・再帰 < týna「失う」。受動の意味の再帰態。

Aucun commentaire:

Enregistrer un commentaire