vendredi 2 octobre 2020

中山『標準ラテン文法』練習問題解答 (9)

中山恒夫『標準ラテン文法』(白水社、1987 年) 第 17 課と第 18 課の解答例。同じ著者による解答つきの『ラテン語練習問題集』(白水社、1995 年、新装版 2009 年) と共通する文が見つかる場合にはその箇所を追記している。『ガリア戦記』などの原典についてもしかり。また、この教科書は後半になるほど、ローマの歴史 (ときにギリシアの歴史や神話) について知っておかなければ正しく理解することが難しい文も現れるようになる。十全には程遠いまでも、そういうところにはなるべく解説めいたことを補記するように努めた。

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第 17 課


和訳


1. 春が近づくと、ハンニバルは軍勢を冬営陣から引き出した。〔『練習問題集』22 課 5 節 1) の例文、および練 XXII 5. 例と同文。時の cum。〕

2. すでに春が近づいていた [近づきつつあった] ときに、ハンニバルは冬営陣から出発した。〔練 27 課 5 節 2) の例文と同文。倒逆の cum。〕

3. より低い官職に就くまえには誰も法務官や執政官とされなかった [にならなかった]。

4. 父が帰ってくるまで私は家にとどまっていた。〔練 XXVII 6. 8) と同文。〕

5. ローマ人たちの軍勢は仲間たちが救援に駆けつけるまで敵たちの攻撃に耐えた。〔練 XXVII 6. 7) と同文。〕

6. 何人かのトロイア人たちは、ギリシア人たちが勝利したあと、破壊された町から移住した。〔練 XXIII 2. 4) にやや類似。〕

7. 君が何も言わないのは、これらが真実であると認めていること (と同じ) だ。〔説明の cum。〕

8. 君が幸福でいるかぎり、多くの人たちが君にとって友人でありつづけるだろう。〔原典はオウィディウス『悲しみの歌』I 巻第 9 歌 5 行改変。「雲行きが悪くなったときには君は孤独になるだろう」と続く。詩人が追放先の僻地から歌ったもの。〕

9. よりよい新しいものを用意してしまうまで古いものを壊すな。〔habeās と完了受動分詞 parāta については §48 A. [2] c.〕

10. 逃げる最良の機会が彼に与えられたとき、そのときでさえソークラテースは牢から脱出しなかった。〔fugiendī は動名詞の属格。nē ... quidem「〜さえない」。〕

11. オルペウスが歌うたびに、木や岩 (までも) が近づいてきた。〔反復の cum。「伝説によれば,オルペウスは素晴らしい音楽家だったので,彼が歌い竪琴をかなでると……木や石ですら,彼の音楽を聞きにやって来たと考えられている」(グラント/ヘイゼル『ギリシア・ローマ神話事典』邦訳 188 頁)。〕

12. 私たちが散歩しているとき、私たちのあいだで (=互いに) 相談していた。〔倒逆の cum。〕

13. 愚かな者たちは過ちを避けようとするあいだに反対の (過ち) に走るものだ。〔原典はホラーティウス『風刺詩』I 巻第 2 歌 24 行。〕

14. ポンペイウスは、(彼が) もっとも信頼しているところの軍の一部分が恐れおののいているのを見るや否や、戦列を離れて陣営へ行った。〔ut 文の動詞 vīdit が直説法完了であることに注意して「〜するや否や」ととる。受動分詞 perterritam は esse の省略された不定法受動態完了 (cf. 松平・国原『新ラテン文法』§504)。sē(que) contulit < sē cōnferre「行く」。〕

15. 都市の市民たちの風紀は、とくに贅沢な生活が彼らによって好まれるゆえに、しばしば堕落している。〔dīligātur は接続法受動態現在、したがって主文の corruptī sunt も受動態完了というよりは形容詞として現在の文ととるほうがよいだろう。〕

16. ローマ人は戦争の準備ができていなかったのに対して、マケドニア人の王ペルセウスは完全に準備ができていた。〔練 27 課 5 節 1) の例文と同文。対照の cum。〕

17. ソークラテースは容易に牢から引き出されることができたけれども欲しなかった。〔譲歩の cum。〕

18. 私たちが生きることは不死なる神々の贈り物であり、よく生きることは哲学者の (贈り物である)。

19. ソークラテースは死刑にされた、(彼が) なんらの罪を犯したためでもなく、権力をもっている者たちの気に入らなかったがために。

20. 君を信用しない理由はない。

21. マンリウスは自分の命令に従わなかったという理由で息子が殺されるよう命じた。〔前 4 世紀の軍人ティトゥス・マンリウス・インペリオースス・トルクァートゥスのこと。この文だけ読むととんでもない暴君のようだが事情があって、功に逸って命令を無視し勝手な一騎打ちを行った息子を軍規に従い処刑したという話。同様の経緯で息子を処刑した前 5 世紀の軍人アウルス・ポストゥミウス・トゥベルトゥスと並んで、ローマ軍が苛烈なまでに厳格に軍規を重んじたエピソードとして挙げられる。本村『教養としての「ローマ史」の読み方』96–97 頁。〕

22. 都合よく使節たちが来るということが起こった。

23. 貴族たちがカティリーナを恐れたということが、新人であるキケローが執政官に選ばれた事実によって証明される。〔事実 (説明) の quod で、その先行詞 eō は受動態 dēmōnstrātur の手段の奪格。対格不定法の optimātēs と Catilīnam どちらが不定法句の主語であるかは文脈から決定されるしかない。〕

24. 水を (ローマの) 町に導いて国家によく配慮した (=国家の利益となった) ことで、アッピウス・クラウディウスに名声と栄誉が与えられた。〔ローマ最古の水道であるアッピア水道のこと。このあたりの事情については最近の本だとマティザック『古代ローマ旅行ガイド』がおもしろい (水道については邦訳 33 頁以降)。〕

25. 君が無事で戻ったことで、私は君にお祝いを言う。〔説明または理由の quod。salvus は隠れた主語 tū の述語的同格。〕

作文


1. Cum soror (ad)vēnit, librum lēctūrus eram.

2. (Is) vulnerātus est, cum pūgnāret.

3. Ubi (prīmum) epistulam amīcī lēgī, (is) ipse vēnit.

4. Errās in eō, quod mē tibi invidēre putās.

5. Gaudeō, quod valēs.


第 18 課


和訳


1. 私たちはしばしば欲しないことを行うことを強いられる;しかしもしすべての人間たちが、欲するところのことをなんであれ行ったならば、人間という種族は短い時間で絶滅させられてしまうだろう。〔現在の非現実条件文。〕

2. もし君たちが満足しているならば、幸福な人生を生きるだろう。〔現在の可能的条件文。同族対格 (§63 [4] a.)。〕

3. すべての人たちが騒ぐとしても、私は考えているところのことを言うだろう。〔dīcam は直説法未来。〕

4. キケローがカティリーナの陰謀を暴かなかったならば、国はほとんど滅びていただろう。〔非現実条件文だが paene のため periit が直説法完了となっている (§74 [4] a.)。『練習問題集』XXIV 3. 12) に類似。〕

5. (彼は) もし何かを持っていたならば与えねばならなかっただろう。〔非現実条件文だが「ねばならぬ」なので直説法 (§74 [4] b.)。〕

6. もし私が病気でなかったならば、君に手紙を書いただろう。〔過去の非現実条件文。〕

7. たとえ君が豊かであっても、ほかの貧しい人よりも豊かではないだろう、この後者が自分の境遇に満足していさえすれば。

8. すべての苦労が空しかったとしても、落胆しないようにしよう。〔もちろん日本語として自然な「すべてが徒労だった」にしてよいが、主語が「すべて (のこと)」という中性複数主格 omnia ではなく男性複数で labōrēs にかかっていることは見逃さずにおこう。〕

9. ローマ人たちはたとえフォルトゥーナから見捨てられたとしても、それでもすべての希望を武勇にかけていた (ものだった)。〔事実の条件文。〕

10. キケローは、ほかのことを私は言わないとしても、もっとも有名な演説家だった (ことは確かだ)。

11. 幸運にというよりも勇敢に彼らは戦った。

12. 彼はあたかも自分自身が参加していたかのように自慢する。

13. カエサルはできるかぎりの強行軍で外ガリアに急行した。〔練 XX 6. 5) と同文。magnum iter「強行軍」の最上級と quam「できるだけ」。原典は『ガリア戦記』I 巻 7 章 1 節改変。〕

14. 富が大きければ大きいほど、ときに貪欲も大きい。〔練 XXV 6. 3) とほぼ同文。〕

15. ウェルギリウスは自分の詩をホメーロスと似たような方法で構成した。

16. ガリア人たちはローマ人たちを道中で襲い荷物を奪った;このことをカエサルが見てとると、敵たちに向かって転進することを命じた。〔adortī は形式所相動詞 adorior「襲いかかる」の完了受動分詞だが意味は能動 (樋口・藤井『詳解ラテン文法』§69 (3))、これが Gallī に対し接合分詞の関係にある。前文を受ける quod、歴史的 cum。〕

17. もっとも甚大に破損した船の素材を、カエサルは残りの (船) を修理するために使った。〔練 28 課 2 節 5) の例文とほぼ同文。先行詞 nāvēs が関係文に取りこまれているもの (§78 [5])。materiā は ūtor の奪格目的語。なお単語集で afflīgō の目的分詞が -flīctum となっているが、そちらのほうが間違いで、マクロンのない問題文の afflictae が正しい。原典は『ガリア戦記』IV 巻 31 章 2 節一部省略。〕

18. カエサルは彼が持っていたもっとも強固な軍勢とともに来た。〔最上級が関係文のなかに取りこまれたもの。〕

19. そしてそれらのことが成しとげられるとカエサルは真夜中に出発して朝に敵たちの陣営にたどりついた。〔関係文の独立用法。profectus は Caesar に同格の接合分詞。原典は『ガリア戦記』VII 巻 18 章 2 節改変。〕

20. ポンペイウスは、ローマの支配の光であったが、醜く死んだ。〔(グナエウス・) ポンペイウスが生きたのは共和政の末期なので、imperium Rōmānum を「ローマ帝国」としてはいけない。〕

21. 私が (いま) それであるところの者であるのは神の恩寵によっている。

22. カエサルはゲルマーニア人たちが陣取っていたところのその場所の向こうに陣営が築かれることを命じた。〔練 XXVIII 2. 3) と同文。〕

作文


1. Quamquam tē interrogāvī, tamen tacēs.〔練 XI 3. 3) に類似。〕

2. Nisi aegrōtus fuissem, iam prīdem (epistulam) ad tē scrīpsissem.

3. Saepe aliter agere cōgimur atque in animō habuimus.

4. Quam celerrimē ad tē veniam.〔練 XX 6. 2) と同文。〕

5. Lēx, quō brevior est, eō melior est.〔練 XXV 6. 2) と同文。〕

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