樋口勝彦・藤井昇『詳解ラテン文法』(研究社、1963 年、新装版 2008 年) の第 9 課から第 12 課までの解答例。
まえにも述べたとおりこの本は紙幅のわりには難しいことをときどき書いている。今回なら第 10 課 40–41 頁の注にある「書簡上の時称」というものを私は知らなかった (ギリシア語の書簡体アオリストは知っていたが、ラテン語にもあるとは)。第 11 課 42 頁の注には 1 人称複数に謙遜の用法のあること (これは『ラテン語初歩』でも初版最終課の読み物 §461 の注にひっそり出てきたが、自明のことではない)、それから 2 人称複数 vōs を敬称の「あなた」に使うことはないというのは周知だがはっきり言いきってあるのは助かる (『テルマエ・ロマエ』の小達さつきのラテン語 « Qua es vos ex ? »「あなたどこの人?」というのがいかに不勉強かわかる。これの難点は vōs だけではないが)。さらに 44 頁注 5 ではスペイン語の conmigo 等が cum + mēcum という重言であることを学んだし、同じく注 1 の、フランス語の代名動詞の相互的用法はラテン語にはなかった (かならず inter sē で言う) という話も言われてみればおもしろい。こういったことは、大学の講義であれば教室で先生が口頭でさらっと補足してくれるような細かいことを文字にして残してくれているようなもので、そういう点では独習向きの本と言えなくもない。
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IX. 名詞の変化 (3)
§43.
(1) 曲用練習
1. 単数 homō, hominis, hominī, hominem, homine; 複数 hominēs, hominum, hominibus, hominēs, hominibus.
2. mulier, mulieris, mulierī, mulierem, muliere; mulierēs, mulierum, mulieribus, mulierēs, mulieribus.
3. turris, turris, turrī, turrim/em, turrī/e; turrēs, turrium, turribus, turrīs/ēs, turribus.
4. corpus, corporis, corporī, corpus, corpore; corpora, corporum, corporibus, corpora, corporibus.
5. nox, noctis, noctī, noctem, nocte; noctēs, noctium, noctibus, noctīs/ēs, noctibus.
6. ignis, ignis, ignī, ignem, igne/ī; ignēs, ignium, ignibus, ignīs/ēs, ignibus.
7. tempus, temporis, temporī, tempus, tempore; tempora, temporum, temporibus, tempora, temporibus.
8. rēte, rētis, rētī, rēte, rēte/ī; rētia, rētium, rētibus, rētia, rētibus.
9. victor, victōris, victōrī, victōrem, victōre; victōrēs, victōrum, victōribus, victōrēs, victōribus.
10. calcar, calcāris, calcārī, calcar, calcārī; calcāria, calcārium, calcāribus, calcāria, calcāribus.
(2) 和訳
1. マールクス・トゥッリウス・キケローは有名な弁論家だった。
2. 山の頂上で私たちは長い髭の老人を見る。〔barba longa は性質の (記述的) 奪格。〕
3. しばしば鳥たちについてラテン語の著作家たちは言及する。
4. アシアでは病気で人々が蝿のように死ぬ。
5. 君たちの農地は十分に遠く都から離れていた。
6. 農夫は耕地のそばで地面で仰向けに横たわっていた。
7. このように私たちは長い時間をさまざまな会話で過ごしていた。
8. 私は田舎で陰謀から安全になって私の人生を静かな気もちで過ごしている。〔主語に同格の副詞的な totus が ab をとる。〕
9. 僭主ディオニューシオスはしばしば家でも自分の歌を朗読していた。
10. 敵たちの将軍の法廷にローマ人たちが来る。
11. 空には異常な大きさをもった雲が現れるだろう。
12. 哲学者たちは自分たちの平静さで他の者たちの恐怖を和らげる。
13. 最初においてさえローマの都はこれほど壮大だったのか。
14. 戦争のあいだは法は沈黙する。
15. 人間は人間にとって狼である、人間ではない。
16. 技術は隠されていれば役に立つ。〔恋の手管のこと。技術だと見抜かれていれば冷めてしまう。〕
17. 一文なしの旅人は追い剥ぎの面前で歌うだろう。
18. というのは、私は満杯の船 (=船が満載) でなければ決して乗客をとらないから。〔navi plena は奪格。文法関係を理解し正しく訳せてもほとんど意味不明だが、これはアウグストゥスの娘ユーリアがアグリッパと結婚していたとき、頻繁に浮気をしていたのに子どもたちがちゃんと夫にそっくりなのはなぜかと問われて答えた言葉。夫の子を妊娠しているときでなければ他の男を乗せないということ。〕
19. 倹約はよい噂の困窮である。〔記述的属格。これも単語集の訳語で正しく訳してみてもピンとこないが、たぶん、倹約というのは困窮のことを聞こえがよく言っただけの同じものだ、ということを述べていると思う。この述語は主従をとりかえて「倹約とは困窮の美名である」とするほうがわかる。〕
X. 動詞の活用 (5)
§49.
(1) 活用練習
1. referō : rettulī, rettulistī, rettulit, rettulimus, rettulistis, rettulērunt.
2. narrō : narrāvī, narrāvistī, narrāvit, narrāvimus, narrāvistis, narrāvērunt.〔本書では nārrō, nārrāvī の最初の a のマクロンを付さない流儀なので、それに従う。〕
3. agō : ēgī, ēgistī, ēgit, ēgimus, ēgistis, ēgērunt.
4. condō : condidī, condidistī, condidit, condidimus, condidistis, condidērunt.
5. quaerō : quaesīvī, quaesīvistī, quaesīvit, quaesīvimus, quaesīvistis, quaesīvērunt.
6. maneō : mansī, mansistī, mansit, mansimus, mansistis, mansērunt.
7. dō : dedī, dedistī, dedit, dedimus, dedistis, dedērunt.
8. ōrō : ōrāvī, ōrāvistī, ōrāvit, ōrāvimus, ōrāvistis, ōrāvērunt.
9. absum : āfuī, āfuistī, āfuit, āfuimus, āfuistis, āfuērunt.
10. adeō : adiī, adīstī, adiit, adiimus, adīstis, adiērunt.
(2)
1. dīlaniāverat : dīlaniō〔裂く〕直説法過去完了 3 人称単数。
2. ēmī : emō〔買う〕直説法完了 1 人称単数。
3. inieritis : ineō〔入る〕直説法未来完了 2 人称複数。
4. fuit : sum〔ある〕直説法完了 3 人称単数。
5. lūsisse : lūdō〔遊ぶ〕不定法完了。
6. pugnāvimus : pugnō〔戦う〕直説法完了 1 人称複数。
7. abstulit : auferō〔運び去る〕直説法完了 3 人称単数。
8. cecinerant : canō〔歌う〕直説法過去完了 3 人称複数。
9. flēmus : fleō〔泣く〕直説法現在 1 人称複数。
10. vīdit : videō〔見る〕直説法完了 3 人称単数。
(3) 和訳
1. 少女は手紙をまったく嫌がらずに (差し) 出す。
2. 奴隷はすでに別荘から戻ったか。—— (彼は) まもなく来るだろう。〔§§16, 37 の説明のとおりに、文頭の servusne がもっとも重要度の高い疑問の中心だとして「すでに別荘から戻ったのは奴隷か」と訳すと返答が噛みあわなくなるので、これは §37 の説明が嘘。〕
3. 私は前日に君の手紙に返事を書いてしまっていた。〔意味はただの過去で「昨日」のことだということは注を参照。〕
4. ファレルヌスの野でハンニバルを迎え撃ったのはローマの独裁官クィーントゥス・ファビウス・マクシムスだった。
5. カエサルは自分の軍勢を (すでに) 先遣していた。
6. なぜ君は間にあうように戻らなかったのか。
7. 知恵について私たちは多くのことを言ったし、(今後も) しばしば言うだろう;いま私たちは友情についての本を友人のアッティクスに送る。
8. 私の医者は、もし来たらすぐに少年を治すだろう。
9. 多くの涙とともに哀れな住民たちは使者たちの言葉を聞いた。
10. 子どもたちは夕食のあとの時間しばらくのあいだ遊んだのではないのか。
11. 銅や金の山は体から熱を追い出さない。〔febris は複数対格。注に格言的完了とあるが、そのまま完了で「追い出したことはない」とも読めるのでないか (現に ‘no pile ... has ever freed’ としている英訳がある)。〕
12. 私は来た、私は見た、私は勝った。
13. 私たちはトロイア人だった、イーリウム [トロイ] はあった。
14. 私は不浄の群衆を憎み、遠ざけている。
15. アンクス・マルキウスはティベリスの戸口 (=河口) でローマの都から 16 里離れた海の上に国家を建てた。〔この本の単語集を見るかぎり「海の上に」としか訳せないが、「接して」ということだろう。ティベリス=テヴェレ川を下ったところにあるローマの外港オスティアのこと。〕
XI. 人称・再帰代名詞
§52.
1. その僭主は私を憎んでいるのか。
2. 私はそれを少なくともかつてキケローの書で読んだ。
3. 妻よ、おまえはただちに子どもたちと奴隷たちとともに伯父のもとへ行くがよい。〔命令の意味の 2 人称未来。sē conferre「行く、赴く」。〕
4. 君は私とともにローマへ来たのではないのか、ティブッルスよ。
5. 騎兵たちは張りあって互いのあいだでしばしば戦っていた。
6. その女主人は鍵のかかる部屋へ子どもたちと奴隷たちとともに引き下がった。
7. 恐ろしい伝染病が彼らのなかへ流れこんだ [彼らを襲った]。
8. 盗賊は自分とともに金を運ぶだろう。
9. 私は彼をどこにも見ない。
10. 私たちのうちの少数がここにとどまり、祖国のために死へと自分たちを晒すだろう。
11. 私たちと君たちとに王は使者たちを送ったのではないだろうね。
12. なぜ私は君たちをこのように衰弱して見る (=君たちは衰弱して見える) のか、少年たちよ。
13. ゲルマーニア人はガリア人と毎日の戦闘で争い、彼らの耕地を荒らす。
14. 私たちは愛する祖国を逃れた。〔「祖国へ」という方向の対格にも見えるが、fugiō は他動詞として「〜から逃げる」。前者ならたぶん ad か in + 対格で言うだろう。なお問題文で珍しくマクロンがついているように、3 単と 1 複ではそれぞれ現在 fŭgit, fŭgimus と完了 fūgit, fūgimus が u の長短でしか違わないので注意。〕
15. 私とトゥッリアは元気だ。
16. 君にはマールクスという友人がいたか。〔fuit が文頭に立っているし、与格 tibi もあるので存在の sum。〕
17. いつも私にとって友人であり、いつまでも妻でもあってくれ。
18. カトゥッルスよ、閑暇は君にとって厭わしい。
19. なぜなら本当に神々は私たち人間をあたかも (遊びの) 球のようにみなしている。
XII. 形容詞の変化 (2),副詞,動詞の活用 (6)
§58.
(1) 曲用練習
1. 男性/女性・単数 facilis, facilis, facilī, facilem, facilī; 複数 facilēs, facilium, facilibus, facilēs/īs, facilibus; 中性・単数 facile, facilis, facilī, facile, facilī; 複数 facilia, facilium, facilibus, facilia, facilibus.
2. 単数 pār, paris, parī, parem + pār, parī; 複数・主対 parēs + paria, 属 parium, 与奪 paribus.〔+ の後ろは中性のみ異なる場合。複数の主と対、与と奪は同じなのでまとめる (i 幹では対に -īs もあるが略)。以下同様。〕
3. dīves, dīvitis, dīvitī, dīvitem + dīves, dīvite; dīvitēs + dīvita, dīvitum, dīvitibus.〔i 幹ではない。〕
4. pauper, pauperis, pauperī, pauperem + pauper, paupere; pauperēs + paupera, pauperum, pauperibus.
5. grandis + grande, grandis, grandī, grandem + grande, grandī; grandēs + grandia, grandium, grandibus.
6. iuvenis, iuvenis, iuvenī, iuvenem + iuvenis, iuvenī; iuvenēs + iuvenia, iuvenium, iuvenibus.
7. aura levis, aurae levis, aurae levī, auram levem, aurā levī; aurae levēs, aurārum levium, aurīs levibus, aurās levēs/īs, aurīs levibus.
8. iter breve, itineris brevis, itinerī brevī, iter breve, itinere brevī; itinera brevia, itinerum brevium, itineribus brevibus, itinera brevia, itineribus brevibus.
(2) 副詞
1. fortis : fortiter.
2. līber : līberē.
3. longus : longē.
4. miser : miserē.
5. facilis : facile.
6. sānus : sānē.
7. sapiens : sapienter.
8. levis : leviter.
9. pār : pariter.
10. pulcher : pulchrē.
(3) 活用練習
1. mittō : mitte, mittite.
2. laudō : laudā, laudāte.
3. maneō : manē, manēte.
4. condō : conde, condite.
5. prōsum : prōdes, prōdeste.
6. conferō : confer, conferte.
7. dūcō : dūc, dūcite.
8. adeō : adī, adīte.
9. veniō : venī, venīte.
(4) 和訳
1. 父は疑いなくすべてのことを冗談によって行った。
2. 私は罪を犯した。容赦してくれ、お願いだ。
3. (君たちは) 私たちとともにペルシア人の裕福な王のもとへ行け (=来い)。
4. 母よ、静かな気もちであれ (=落ちつけ)。
5. 去れ、おまえは私をからかっている、奴隷よ。〔serve は動詞の命令法ではない。servō, -āre なら servā、serviō, -īre なら servī となるが、servō, -ere という動詞はないので。〕
6. ローマ人の農夫たちは自分たちの畑をよく耕していた。
7. 馬の遅延を我慢できぬ者たちが喜んで馬車を導いていた。
8.「冷たい水で」と医者は言う、「少年の足を洗いなさい。」
9. 強い者たちをフォルトゥーナ [運命の女神] は助ける。
10. 壁にこのような掲示が見えていた:《犬に注意》、そして壁の向こうで犬たちが吠えていた。
11. その町は道からあまりに遠く離れており、私は迅速さに努めた。
12. 風刺を書かない (=書かずにいる) ことは難しい。
13. 正義はあらゆる徳の女主人にして女王。〔複数属格 omnium は最後の virtutum にかかるものととる。〕
14. 私たちはみな健康であるとき容易に正しい助言を病人たちに与える。
15. 悲しみは強い心を (さえ) 砕く。
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